25話 『ヤンキー彼氏はお徳用・3』

 睦はベッドの下に忘れ去られていたシャンプーのボトルを、手に取った。新品のボトルが盛り上がった睦の上にあっさり鎮座した。

「これでいい?」
「さすが。むつきゅんもお徳用だね」
「人のちんこをお買い得みたいに言うのやめてもらっていいっすか」

 うまいこと言ったつもりだったが、気に食わなかったらしい。すぐに下ろそうとするのを慌てて止めながら、八戸はスマホを構えた。
 ローアングルから硬い表情の彼を一枚写真に収める。

「ポーズ取って」
「注文多いな」

 そう言いながらも、睦はTシャツの裾を捲って割れた腹筋を露わにさせた。

(ああ、むつきゅん、最高♡)

 優秀な年下彼氏は八戸のツボを分かっている。八戸は興奮を抑えながら、シャッターボタンを押し続けた。サイレントモードにしておいてよかった。あまりの連写に音が出ていたら睦は引いていただろう。
 画面の中の睦は、スキンを咥えて微笑んでいる。
 そうかと思えば、足首を掴まれ片足を持ち上げられる。視線をこちらに置いたまま、ふくらはぎにキスを落とす。そして、膝の裏を掴まれたまま徐々に近づいてきた。途中、睦の上に乗っていたシャンプーが八戸の身体の上に落ちてベッドの下に転がったが、二人は全く気にしなかった。少なくとも八戸はぎらつかせた目で迫ってくる彼に夢中でレンズを向けていた。

「いつまで撮ってんだよ」

 いつの間にか真上にまで迫っていた睦がスマホを掴んで直に覗き込んできた。八戸は熱に浮かされた気分で彼を見上げながら、再びシャッターボタンを押した。スマホを離さない八戸に睦は苦笑して、張り詰めた自身を八戸の内股に押しつけた。

「いい加減限界なんだけど」

 切なげに眉を寄せ、粗暴にスキンの包みを噛み切る睦。その写真を撮ったところで撮影会は中断された。スマホを持っていた手首を掴まれ、マットレスに押しつけられたからだ。二人の視線が結ばれ、静かな時間が流れる。八戸はもうスマホを取ろうとはしなかった。ゆっくりと瞼を閉じたと同時に唇が重なった。互いの舌を絡ませながら、手首を掴んでいた彼の手が上がってきて、手のひらを重ねてきた。汗ばんだその手を握り返す。
 後孔にぴたりと睦の先端を当てられて、息をのむ。この瞬間は何度経験しても怖い。少しでも受け入れられるよう両足を彼の背中に回した。

「八戸さん、ちょっと勃ってる?」

 俯いた彼に指摘され、羞恥に頬が熱くなる。さっき達したばかりなのに、睦を撮っていたら興奮してしまった。八戸は震えながら呟いた。

「い、今、挿れられたら、またすぐイっちゃうかも……」
「別にいつものことじゃん」
「そんなことは……ぁッ……うぅ……」

 言い訳を封じるように睦が侵入してくる。圧迫感に歯を食いしばる。冷や汗が額ににじむ。何度も行き来しながら睦がゆっくりと入ってくる。

「入ったよ」

 言われなくても分かる。呼吸するたびに彼の形が分かるほど、自分の中にぴったりと埋め込まれている。「動くよ」という短い宣言とともに一気に引き抜かれ、八戸は背中に回した手に力がこもった。

「……ぅ……あ゛あ゛……ッ」

 抑えようとしても噛みしめても勝手に声が出る。ベッドの上に転がっていたクッションを取って、自分の口に押しつけた。
 彼が動くたびに全身を駆け巡る衝撃のような快感に八戸は体を震わせながら耐えた。無理矢理抑えた声が行き場のない快感となって身体の中で反響する。顔が全身が沸騰しそうなほど熱い。

「ふ……っ、んんんぅ……」

 ずぶずぶと音を立てて睦が旋律を刻む。
 生理的な涙がぼろぼろと溢れてこぼれ、嬌声と涙をクッションの綿に吸わせた。陸に揚げられた魚のように跳ねる身体は自分のものではないようだ。
 ふと睦は動きを止めると腰を掴んでゆっくり深くまで突き刺した。彼の凶器のような性器はあっさりと八戸の最奥に届いて届くはずない場所を突いてくる。
 内臓に近い敏感な場所に触れられると電気のような甘い感覚が腰から全身に飛び火する。

「奥でゆっくり擦られるのが好きだよな」
「……ん゛ん゛ぐぅ……ッ」

 感じすぎておかしくなりそうだった。
 クッションで顔を覆ったまま、止めて欲しくて首を横に振った。それを否定だと受け取った睦は軽く笑いながらも動きを止めなかった。

「本当? ビクビクしてるよ」
「……ーーッッ」

 同じところを何度も擦られ、八戸は何も考えられなくなった。再び絶頂が目の間にまで迫って、勝手に腰が揺れる。

「気持ちいい?」
「気持ち……いい……ぅぅ゛」

 素直に頷くと、ナカの睦が一層膨らんだ。窺うように打ち付けていた睦の動きに激しさが増して、快感の波が再び八戸を包んだ。

(……イく……ッ)

 その波に身を任せようとした瞬間、顔に押しつけていたクッションを奪い取られた。

「あ……ふぁっ……」

 頬に生ぬるい汗が落ちてきた。
 額に汗を浮かべた睦が視界いっぱいに広がる。目が合うと白い歯を見せて勝ち気に笑う。

「すげぇイイ顔」

 睦が膝立ちになって、繋がったまま上からのしかかってくる。身体を二つ折りになって一層深く繋がった。

「ああぁ……ッ」

 無意識に逸らした頬を汗で湿った手に掴まれ、上を向かされる。そしてその手が八戸の口を塞いだ。

「抑えとくから顔見せて。一緒にイこ。な?」

 掠れた声に八戸は泣きながら何度も頷いた。再び激しく動き出すと八戸は口から漏れるあえぎ声をその手にぶつけた。真っ白になる視界の中で、何度も睦の名を呼びながら、八戸は達した。それとほぼ同時に八戸の奥で睦が果てたのを感じた。

「八戸さん……生きてる?」

 全裸でうずくまる八戸に控えめな睦の声が聞こえる。二人同時に果てたあと、睦は勃起が治まらないと強引に二回戦に持ち込まれた。野獣のように後ろから突かれて、前後不覚になるほど乱れてしまった。

「睦……」

 押し殺していたはずなのに、声が枯れている。肩越しに振り返ると、睦は水を入れたコップを片手にピクリと肩を揺らした。怒られると思っているのか表情が少し硬い。
 悪戯したあとの犬のような表情に八戸は小さく笑った。言おうと思った文句も忘れて、口から出てきたのは正反対の言葉だった。

「好きだよ……」
「うん、俺も好きだよ」

 一瞬で笑顔になった睦はうずくまる八戸の頬にキスを落とした。

(おまけ)

 シャワーを浴びて時計を見るととっくに終電が過ぎていた。夜中に家に帰すわけにもいかず、結局泊まりになってしまった。風呂上がりの二人はさっき撮った写真を見返していた。

「八戸さん、これほぼ動画じゃん」

 睦が写真の量に笑っている。連写した写真をスライドさせると画面の中の睦がゆっくりウインクした。連写した写真をいったりきたりして二人で遊んだ後、睦は不意に話題を変えた。

「八戸さんはやらねーの? シャンプーチャレンジ」
「俺はそんなでかくないし」
「いけると思うけど。ちょっと立ってくださいよ」

 八戸は仕方なく重い腰を上げて立ち上がった。下着姿の八戸の腰に睦が手を添えた。

「多分、勃ったらこれぐらいになるじゃないすか」

 どうやらシャンプーチャレンジのシミュレーションをしてくれているらしい。フルに勃起しても多分そこまで大きくはないと思ったが、訂正はしなかった。睦はさっき使ったシャンプーを取って、その仮の八戸自身に乗せた。
 乗るか落ちるか、緊張に息を吸った瞬間、膨らんだお腹がお徳用のシャンプーを弾いた。

「……あ」

 深夜に満タンのシャンプーが床に落ちた。ゴロゴロと床を転がるボトルを二人で見送った後、睦が吹き出して爆笑した。

「い……今は食後だから!」

 虚しい言い訳をしたところで、彼の笑いが収まるわけがなかった。腹を抱えて笑う彼氏を眺めながら、八戸は次こそは絶対に痩せようと決意したのだった。

おしまい

ありがとうございました!

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