22話 『ヤンキー彼氏の大きすぎる偏愛・15』

 ピロートークもそこそこに、睦はタオルを取ってきて拭いてくれる。隙あらば甘えてきて二回戦をねだる彼になんとか流されないよう堪え、いちゃいちゃしていたら昼過ぎになっていた。

 狭いシングルベッドの上で他愛のない会話をしながら、横になったり隣に並んで座ったり……我ながらよく飽きないものだ。

 ふと、ベッドの上に転がっていたコンドームの箱が目に入り、八戸は引っかかっていたことを思い出した。

「むつきゅんさ、童貞だって言ってたよね」

 横になっている八戸の足元で睦が下着姿で膝を抱えていた。曖昧に返事をする彼にさっき疑問に思ったことを口にした。

「どうしてゴムの箱開いてたの?」

「えっ、なんで知ってるんすか!」

「鞄開けた時、見えた」

 DVDを取り出した時に見えたのだ。一番手前に堂々と入れていたのに、この狼狽。彼は意外と抜けている。

 睦は言いづらそうに視線をそらして、膝小僧をすり合わせている。

「それ、絶対言わなきゃ駄目すか」

「言えないならいいけど……」

 箱が空いていた理由など、一つしかない。

 八戸はXLと書かれたそのパッケージを眺めた。

 どう使ったかは予想するしかないが、万が一、彼がこのセックスのための『練習』に使ったとするなら、それは浮気に値するのだろうかと自問する。

 そんな悶々とした八戸の顔を見てなにか悟ったのか、睦は慌てた様子で否定した。

「いや、浮気とかしてねぇから!」

「ふぅん」

「……練習したんすよ、付けるの」

「誰と?」

「誰って……一人に決まってんじゃん……」

 睦は膝を抱えたまま項垂れて白状する。

「こんなん失敗したら恥ずかしいじゃないすか。俺、浮気とかしないんで……」

 八戸は項垂れた彼の頭をくしゃりと撫でた。

「疑ってごめんね。むつきゅん、モテそうだから」

「そりゃ、モテるけどさ」

 そこは否定しないのか。

 確かにこんなイケメン、周りが放っておかないよな。ちんこもでかいし。鬼に金棒とはこのことだ。

 しかしそんな鬼にも不安なことはあるようだった。

「八戸さんの方が危なっかしいすよ」

「俺? モテてないよ?」

「親方にベタベタ触られてるじゃないすか」

 思いも寄らない人物が出てきて、八戸は吹き出した。それにしても見てないようでよく見ている。

「あの人は誰にでもああでしょ。それに肩を叩く程度だし」

「次からは避けてください」

「無茶言うなよ……」

 その後睦は、八戸を気遣ってキッチンに立って、チャーハンを作ってくれた。汗で濡れたトレーナーが嫌だと言うので八戸の服を貸した。自分の服を着ている睦が新鮮に見えたし、キッチンに立ってくれるなら、フリル付きのエプロンでも準備したいと密かに妄想を膨らませた。

 二人は八戸の部屋でだらだらと過ごした。途中昼寝をしたり、八戸のお気に入りの映画を一緒に見たりしているうちにあっという間に日が落ちた。

 一つ一つはなんてことないことなのに、睦が隣にいるだけで幸せだった。それは睦も同じように思っていたようで、帰りを促そうとすると話をそらしてくる。

 そしてなんだかんだと理由をつけて嫌がる彼に上着を着せたところで、仔犬のような上目遣いが炸裂した。

「……泊まっていったら駄目すか?」

 いいよ!

 って言いたい気持ちをぐっと堪える。

 今日、何度こらえただろう。試されている気持ちにさえなる。

 八戸は努めて冷静にそして静かに首を横に振った。

「君は将来、俺を家族に紹介してくれるんでしょ?」

 急に話が飛び、睦はきょとんとした顔でしばし瞬いたあと、頷いた。

「その時に、大人として君を大事にしてきたってちゃんと行動で示したい。……協力してくれるかな」

「そんなこと言われたら、帰るしかねぇじゃん」

 降参したような笑顔を見せて、睦はようやく立ち上がった。駅まで送るつもりだったが、危ないからと言って聞かない。三十路の男が夜七時の住宅地を出歩くことのどこが危ないのか甚だ疑問だが、ひとまず彼の好意に甘えておいた。

 履きつぶした黒のスニーカーを二秒で履いて、向かい合う。何か言いたそうな顔をしている睦の言葉を黙って待った。

「俺、ちゃんと八戸さんと釣り合えるように頑張るんで」

「……うん」

 もうとっくに釣り合ってると口にするのは、彼の決意の芽を摘むような気がしてためらった。

 職場の男に好きだと言った睦。家族に紹介できなくて悔やんでいた睦。彼は八戸と釣り合うどころか、はるか先を行っている。自分に正直でまっすぐだ。対して八戸は今この瞬間だって「愛してる」と言えずにはにかむぐらいしか出来なかった。

「睦、来週もおいで」

 八戸の精一杯の甘い言葉に睦は嬉しそうに笑うと、返事の代わりにキスをした。一週間分の長い口づけにしばらく時間が止まった。

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