19話 『ヤンキー彼氏の大きすぎる偏愛・12』

 日曜日はあっという間に来た。

 仕事に行くか寝るか雑務を済ませるかの三択だった休日に、デートという項目が加わった。前日から泊まりたいと言い出した睦をなんとか説き伏せたが、「じゃあ朝の七時に家に来る」という妥協案は飲むしかなかった。彼から届いた「早く会いたい」というメッセージを抱きしめながら眠った。

 いつもの癖で五時に目が覚めると身支度をしながら部屋を片付ける。もともと寝るだけの部屋である。ゴミを捨てて、服をしまうだけで随分と片付いた。窓を開けて掃除機をかけると心まで洗われるような気持ちになる。

 約束の時間十分前にチャイムが鳴った。玄関を開けるとコンビニの袋片手に少し緊張した面持ちの睦が立っていた。彼は部屋に入るとはしゃぐような声を出した。

「すげぇ綺麗になってる」

 そう言いながら普通にベッドに腰掛けるあたりが睦らしい。狭いワンルームだから腰掛ける場所などそこぐらいしかないんだけども。

(シーツも洗えばよかったな)

 八戸は苦笑しながら茶を運ぶ。会う度に彼の印象が変わる。今日の睦はジャージ姿ということもあり、年相応の少年に見えた。

「一応お菓子とDVD持ってきたんすけど」

 彼の斜めがけバッグの中からコンドームの箱が見えて、八戸は飲んでいた茶を吹き出しそうになった。

(箱ごと持ってきたの? つか、開封済だったよね? なんでDVDより手前にしまってるの? もしかしてえっちなDVDなんじゃ……)

 どこから突っ込もうかともんもんとしていたが、睦が取り出したのはごく普通のDVDだった。

 大人気少年漫画のアニメ映画。漫画に疎い八戸でもあらすじぐらいは知っているぐらい有名なものだ。

 手渡されたものを再生しようとパッケージを開くと明らかに雰囲気の違うピンク色の円盤が入っていた。

「これ……、中身違うんじゃない?」

 今度こそえっちなDVDかと身構えたが、睦は八戸の手元を覗き込んで軽く笑っただけだった。

「あー、アイドルのライブDVDっすね。弟のを勝手に持ってきたんで」

 悪びれず言ってのける彼に暴君であろう兄の片鱗が見えた。

「睦くんの弟っていくつ?」

「これ持ってるのは中三で、あと小三の弟もいます」

「へぇ、三兄弟なんだ」

 そう言いながらも、八戸は内心彼氏の弟が小学生(しかも低学年)であるという事実に動揺していた。

 せっかく持ってきたし、ということでゲイカップルが並んで女性アイドルライブを鑑賞するというなんともシュールな光景が出来上がった。制服を着たアイドルたちが代わる代わるテレビに映し出される。そのうち、誰が好き?とかそんな話になってポテチを摘みながら談笑した。

「あんま興味ないすけど……、まあ、強いていうならこの子かな」

 睦は頭を掻きながら、画面に映し出された気の強そうな茶髪の女性を指差した。確かリーダーの子だったはずだ。

「年上のしっかりした子がタイプなのかな」

「……八戸さんもそういうこと言うんすか?」

 何気ない言葉のつもりだったが、睦は心底うんざりした口調でため息交じりに返してきた。突然どうしたのか驚いていると、睦はそのうんざりの理由を話してくれた。

「現場で熟女好きとか言われてマジでムカついてるんで。俺からしたら、世の中の人間なんてだいたい年上じゃないすか」

「そうだね」

「好きになったのがたまたま年上だっただけでそんな風に言われて、なんか納得いかねぇす。なんで皆そんな年が気になるのかわかんねぇし」

 年を気にしないのは若い証拠だよ、と言いかけてやめておく。そういえば以前も年齢のことで怒っていたのを思い出した。この手の話は禁句のようだ。

 話題を変えようと思ったが、睦は手を組んで身を乗り出してこちらを覗き込んでくる。

「……八戸さんも年、気になりますか?」

「まあ……、気にならないって言ったら嘘になるけど」

 オブラートに包もうとする八戸を睦は直球で斬り込んでくる。

「俺があんま触らせてもらえないのは、俺が年下だからですか」

「え……」

「俺が未成年だから、遠慮してるんすか」

 八戸と睦の間に沈黙が流れ、それを埋めるようにアイドルたちの歌声が虚しく響いた。八戸はリモコンでテレビを消すと、隣に座る彼に体を向けた。

「あのね、睦くん。前も言ったけど、俺は君が思うほど出来た人間じゃないよ。確かに君に触れられるのを避けてしまったけど、そんな高尚な理由じゃなくて……その……」

 口ごもる八戸に睦は不安そうな目を向けてくる。耳が熱くなるのを感じながら、八戸は胸の内を打ち明けた。

「恥……恥ずかしいんだ……」

「なにが恥ずかしいんすか?」

「君に全てをさらけ出すのが」

 我ながら恥ずかしすぎるセリフである。しかし睦はきょとんとして何度か瞬き、八戸の言葉の続きを待っている。八戸はその視線から逃れるように俯いて、黙るしかなかった。しばらくして睦の少し戸惑った声が返ってきた。

「……もしかしてそれだけっすか?」

「それだけって言わないでよ……」

「す、すみません。俺、てっきり……八戸さんはそういうの慣れてると思ってたから」

「慣れてないよ。恋愛とか……久しぶりすぎて困ってるんだから」

 視線を落としたままでいると、ベッドが軋んだ。膝先に睦の膝が触れた。吐息がかかるほどの近さに彼がいる。

「キスも恥ずかしい?」

「……それは大丈夫」

 答えた瞬間、唇が触れた。条件反射で上がった手を睦に握られる。

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