15話 『ヤンキー彼氏の大きすぎる偏愛・8』
軽くキスをしてから身体を離すと、ティッシュで汚れた手を拭いた。ベッドに座る八戸の背後から抱きしめられ、熱っぽく囁かれる。
「今度は俺の番」
「お、俺はいいよ」
「それはないでしょ」
遠慮をばっさり切り捨てられ、八戸は再びベッドに引きずり込まれた。形勢逆転。仰向けに寝転ぶ八戸にまたがる睦。さっきの仕返しとでも思っているのか、その表情は悪戯を始める子供のように輝いていた。
彼は確かめるように服の上から八戸の身体をなぞり、徐々に下肢へと下りていく。触れられたところが熱くなるような感覚に八戸は息をつまらせた。
しかしその勢いも、八戸が下半身を露わにさせたところでぴたりと止まった。睦の目が頭を持ち上げた八戸自身に釘付けになってわずかに表情を引きつらせている。
いくら好きな相手とはいえ、男性器に嫌悪感を抱く者は少なくない。
「むつきゅん、きつかったら無理しなくていいよ」
「無理じゃねーし」
むっとした顔で見上げられ、この気遣いが挑発になったことに気づく。睦はまるでバナナでも食べるかのような無遠慮さで陰茎を口に含んだ。
(わぁぁ……むつきゅんが……、むつきゅんが……俺のちんこを……!!)
記念に写真を撮ろうと慌ててスマホを探そうとしたが、口の中でべろりと舐められ、そんな邪念が吹き飛んだ。
「ん……」
キス上手いやつはフェラも上手い法則。
そんな八戸独自の法則に睦も当てはまったようで、彼の舌は生き物のようにうごめいて、八戸を翻弄させた。
「ふ……ぁ……」
漏れた吐息に睦も気を良くして、根元を唾液に濡れた手で上下させながら、吸い付いてくる。
(初めてでこれかよ……)
末恐ろしさを感じつつも、身体は快感に正直だった。先端を焦らすように舐められ、身が捩れる。
「んんぅ……」
「気持ちいい?」と、睦の目が問いかけてくる。八戸はそれに無言で頷いた。
(気持ちいい……)
しかし快感と同時に懸念が浮かぶ。彼の奉仕にどれだけ神経を研ぎ澄ましても、絶頂には程遠い。代わりに腹の奥が刺激してほしいと疼きはじめた。
八戸はアナルの刺激がないと射精できない。ゆえに、バリウケなのである。
性感帯への愛撫は最初は気持ちいいが、そのうち吐き出せない辛さが上回る。今、まさにその状態であった。
「も……、もういいよ」
八戸は震える手で睦を引き離そうとした。「指を挿れてかき混ぜて」と言わなかった自分を褒め称えたい。
しかし睦は不満そうな顔を向けて、なかなか八戸自身を離そうとしない。八戸の弱い部分を丁寧になぞって、煽ってくる。その度にか細い喘ぎ声が漏れて恥ずかしかった。
本当に大丈夫だと三回ほど伝えたところで、睦はようやく半勃ちの性器から口を離した。彼の濡れた唇が糸を引き、その妖艶さに息を呑んだ。
「……あ、ありがとう」
「すみません……、下手くそで……」
決して下手などではない。普通の男ならとっくに昇天させているだろう。