14話 『ヤンキー彼氏の大きすぎる偏愛・7』
髪を乾かして部屋に戻ると明かりが消えていた。 座っていたはずの睦の姿はなく、シングルベッドの布団が盛り上がっていた。どきまぎしながら覗き込むと睦が横向きになって眠っていた。
(むつきゅんが、俺のベッドで寝てる~~~っ)
寝るの早すぎるとか、ベッドを勝手に使ってるとかどうでもいいと思えるほど、その寝顔は可愛かった。
八戸は己のスマホを取り出して、その寝顔を激写した。デザイン重視でつい買ってしまった高機能のスマホは暗い場所でもよく撮れる。写真を撮る習慣のない八戸もこの時ばかりは、スマホに感謝したのだった。
「て……天使だ……」
今日はこの寝顔を撮ったスマホを胸に抱いて眠ろう。
そう思って静かに床に横になると、ベッドの上でごそごそと物音が聞こえてきた。
「八戸さん、風呂長ぇよ……」
寝起きの芯のない声に、八戸の心臓は飛び跳ねた。暗闇の中で睦の目が開いているのがわかった。
「ねえ、こっち来ねーの?」
「二人は無理だよ」
シングルベッドに大人の男二人は狭すぎる。しかし睦は構わずベッドから手を伸ばして服を引っ張ってくる。
「横向きに寝たらいけるよ」
砕けて話す彼が新鮮でこちらが緊張してしまう。八戸はその手に引かれるように、おずおずとそのベッドに横たわった。やはり仰向けには寝られず、横向きで寝てなんとか収まった。彼に背中を向けると片手で身体を引き寄せられた。
「いけたじゃん」
得意げに笑う彼の鼻息が首筋に当たってびくっと身体が震えた。内心、恥ずかしさに顔が燃えるように熱くなったが、なるだけ平常を装う。
「身動きとれないでしょ」
「……うん」
睦は八戸の背中に顔を埋めて頷いた。その声が少し甘えるように聞こえて、ドキッとした。彼の手がパジャマ越しに胸を探る。
「ドキドキしてる」
からかうように言われたが、八戸は何も反論できなかった。事実、八戸の胸は中から心臓が飛び出そうなほど、激しく高鳴っている。
「俺もしてるよ」
そう言って、後ろからギュッと抱きしめられた。睦の力強い鼓動を背中に感じる。
振り返ると暗闇の中で彼の切なそうな目がきらりと光った。
「八戸さん……」
「むつきゅん」
互いに引き寄せられるように二人の唇が重なった。遠慮がちなキスをする八戸を逃さないとでも言うように唇に吸い付いてくる。腰に手を回されるのと同時に舌を入れられると期待に背中がぞくぞくする。彼の舌は縦横無尽に口内を動き、舌先でくすぐってくる。
その焦れったさに八戸が仕返しをしようとすると、その舌を音を立ててきつく吸われた。
「ふ……んぅ……」
甘ったるい声が抜け、体内の酸素まで吸われたみたいに頭の芯がぼうっとしてくる。
(むつきゅん……キス上手い……)
キス一つで息が上がってしまった。彼は八戸のTシャツをめくろうとしたところで、急に動きが鈍くなった。さきほどのキスとは打って変わって、探ってばかりの緩慢な動きで八戸の身体に触れている。シャツ越しに身体を触れる彼の手が震えているのが見えた。
やはり、彼は慣れてない。
そう気づいた八戸は押し倒すようにして、彼の背をベッドに沈めると、膝立ちになってその身体にまたがった。
緊張に身体を硬くした睦が不安そうに見上げてくる。そんな彼の頬を優しく撫でる。
「睦、肩の力抜いて」
「う……」
頬に当てた手が顎を伝って首筋から下へと降りていく。八戸の手が膨らんだボトムに触れようとした瞬間、焦った声とともに乱暴に手を掴まれた。
「ちょっと待って」
「どうしたの?」
「……あ、その……」
口ごもる様子がいつもの彼らしくない。睦は目を伏せたまま、口を開いた。
「俺のが変でも笑わないでください」
「笑わないよ。みんな大差ないしさ」
安心させるように頭を撫でるとそのまま軽くキスをした。
八戸も彼の気持ちがわかる。十代の頃は形や大きさで、自分の陰茎に自信が持てなかった。が、経験を積むうちにそんなことは大した問題ではないと気づいていったのだ。きっと睦にもそう思える日が来るだろう。
そう思って彼の股間に触れた瞬間、疑問がよぎった。
(……ん? 足が、三本……?)
そして一瞬の間のあと、八戸は自分の手元を二度見した。
(え、これ、ちんこなの!?)
睦の前置きがなければ絶対に叫んでいた。
彼の陰茎は片手では収まらないほど太く、そして長かった。超巨根である。身長二メートルぐらいある男でないとバランスが取れないんじゃないかっていうぐらいデカイ。
性器というより凶器である。決して人の身体に挿れるものではない。
「……変すか?」
八戸の表情を察したのか、彼がぽつりと呟いた。
「風呂屋に行ったらじろじろ見られるし、友達にも黒人級だってからかわれてすごく嫌で……ん……っ」
最後まで聞かず、八戸は服の上から彼自身を柔らかく掴んだ。強弱をつけて擦ると、睦は戸惑ったような声を漏らした。彼自身は少しの刺激を与えると若さゆえの正直さで、みるみる硬さを増していく。八戸は彼のスエットに手をかけると下着ごとずらして彼の立派すぎる陰茎を顕にさせた。
「八……八戸さん……」
恥ずかしさと興奮に混じってどこか怯えたような睦の瞳。
八戸は彼の陰茎に顔を埋めると、その根元に唇を寄せた。
「変じゃないよ。すごく魅力的だ」
視線が結ばれると、睦は瞳が溢れそうになるぐらい目を見開いたあと、湯気が出そうなほど顔を真っ赤に染めた。
「な……、なに言ってんすか……もう……」
震えた声を出しながらベッドに沈む姿は撃沈という他ない。身を起こして彼を見ると耳まで朱に染めていた。
その初々しい照れっぷりが頬ずりしたくなるほど可愛らしい。
期待に膨れた陰茎に唇を這わすと堪えるような吐息が聞こえた。焦らすように唾液で濡らしながら、頂上に向かっていく。先端から咥えたところで、睦が焦ったような声を上げた。
「ま……待って……、八戸さん……。頼むから……」
顎が外れそうなほど、口を開いた八戸の中で睦がびくびくと脈打つのが分かった。八戸は口を離すと、血管が浮くほど張り詰めて震えている。意地悪く笑って舌先で鈴口を突いた。
「いつまで待てばいい?」
「う……、なんでそんなエロいんだよ……」
顔の前でぎゅっと手を握り、睦は悔しそうに呟いた。少し耐えるような間を挟んだあと、真っ赤に血走った目を向けた。
「もうイキそうだから手で……ふっ……」
「こう?」
唾液に濡れた陰茎にゆっくりと指を滑らせると、睦は熱い吐息を漏らしながら頷いた。八戸は手を動かしながら悶える姿をうっとりと眺めた。
(可愛い)
素直で初々しい姿に釘付けになってしまう。その油断を突くように、睦の手が八戸を引き寄せる。
「んぅ……、八戸さん」
甘えるような声とは反対に、彼の手は強引に八戸の肩を抱き寄せて、荒っぽい口づけを仕掛けてきた。
酸素を奪い合うようなキス。時折痛みすら感じるほど、舌を吸われ、睦に余裕がないことが伝わってきた。
弾かれたように唇が離されると、潰れるぐらいきつく抱きしめられた。その身体がびくびくと震える。
「……ぁうぅ……っ」
悲鳴のような呻き声とともに八戸の手のひらに熱い欲望が吐き出された。睦は肩に顔を押し付けて荒い呼吸を繰り返している。
「はぁ……八戸さん……」
愛おしそうに名前を呼ばれて見ると、彼の目が満足そうに潤んでいるのが分かった。